KOTO |CREATOR CANVAS

Jul. 22. 2025

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「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊『コマーシャル・フォト』との共同企画。クリエイターを俯瞰視点でみつめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにする新しいインタビュー特集です。

7つの視点から、気鋭のクリエイターたちの活動や価値観を深掘りし、その独自性を浮かび上がらせることで、その人の魅力や使命を体系的に解き明かしていきます。今回は、広告や雑誌などを中心にメイクアップアーティストとして活躍するかたわら、クリエイティブユニット「MASMES」のビューティーディレクターも務めるKOTOさんにお話を伺いました。

KOTO

Hair&Make-Up

千葉県出身。幼少期に抽象画の絵画教室に通い、色彩感覚や創造力を養う。2012年よりフリーランスのメイクアップアーティストとして活動を開始。2016年よりメイクアップアーティストのCOCO氏に師事し、2018年に独立。現在は雑誌、広告、CF、PV撮影などで幅広く活動しながら、クリエイティブユニット「MASMES」のビューティーディレクターとしても注目されている。

Takahiro Sakai

Photographer

長野県出身、関東を拠点に活動。ソーシャルメディア時代ならではのアマチュア写真活動から2019年にフォトグラファーとして独立。人物写真を主軸に広告や漫画誌、カルチャー誌、写真集、映像など分断のない領域で活動の幅を広げている。SNSでのフォロワー数は、延べ18万に及ぶ。近作は、NGT48・本間日向1st写真集「ずっと、会いたかった」、西垣匠1st写真集「匠-sho-」、私が撮りたかった女優展vol.3参加など。2024年4月よりCo Agencyに所属。

1.活動 / アクティビティ

酒井

今回は「クリエイターキャンバス」の第4回です。メイクアップアーティストであるKOTOさんからどんなお話が伺えるのか、ワクワクしてます。

KOTO

私もお声がけいただけて、すごくうれしいです!

酒井

まずは活動についてお聞きししたいのですが、メイクアップアーティストのお仕事としては、どういったものが多いですか?

KOTO

とくに多いのは、ファッションブランドのカタログでしょうか。あとは、コスメ系のビューティー撮影や、マガジンのビューティーページを担当させていただくことも多いです。

最近はメンズメイクも増えていますね。アーティストの方の宣材写真や、MVのヘアメイクを担当させていただいたり。

酒井

ここ数年で、メンズメイクってすごく一般的になりましたよね。

KOTO

最近は紫外線が強くなったこともあり、日焼け止めなどの肌のお手入れをしっかり行う男性が増えましたし、メイクが「女性だけのもの」ではなくなってきているように思います。

私も、もともとメイクは好きじゃなくて、今でも自分の顔にはほとんど何も施さないような人間なんですが、メイクがいろんな人にポジティブな効果をもたらしているのは素敵だと思いますね。

酒井

えっ、メイクが嫌いだったんですか。そういえば、知り合って数年になるけど、KOTOさんがどんなきっかけでメイクアップアーティストになったのか知らないなあ。

KOTO

ちょっと話が長くなりますけど、いいですか?(笑)

私、もともと幼少期に絵画教室に通ってたんです。抽象画の教室だったから「こう描くべき」という正解のようなものがなくて、何を描いても先生から褒めてもらえるので、すごく楽しくて。でも、絵で食べていくのは難しいだろうというのは学生の頃からなんとなくわかっていたから「せめて雇われない立場になりたい。経営者になろう!」と夢見ていたんです。結局は、新卒で電子機器の会社に入り、OLになったんですけど。

入ってすぐに、自分にOLは向いていないとわかりました。上下関係の厳しい人間関係のしがらみも煩わしかったし、「女性は絶対にメイクして出社しろ」と言われるような、昭和な感じの社風だったので、ぜんぜんなじめなくて。私は肌がデリケートなこともあってメイクが嫌いだったので、頑なにすっぴんで出社していたから、もう問題児扱いですよ。

酒井

(笑)。じゃあ、かなり大人になるまでメイクには苦手意識があったわけですね。

KOTO

そうなんです。でも、あるときしびれを切らした先輩に「メイクの塾に行って、そこで勉強してきなさい」と促されて、しぶしぶ受けに行った講座が、私の人生を変えたというか……。そこで初めて「メイク楽しい!」ってなったんです。

というのも、授業内容が、生徒同士で顔を貸し合ってお互いのメイクをするというもので、自分の顔でなく他人の顔にメイクを施すという体験ができたんです。それまで、誰かにメイクをさせてもらうことなんてなかったから「何これ! 立体的なキャンバスに絵を描いているみたい!」と感動してしまって。「これを仕事にしよう!」と思い、すぐに上司に「やりたいことが見つかったので、会社を辞めます」と伝えました。

酒井

すごい行動力! 上司も先輩もびっくりしたでしょう(笑)。嫌いだったものがある日突然好きなものに変わるなんて、表裏一体というか、おもしろいですね。

KOTO

それからは美容師学校に通って免許をとって、卒業後はヘアメイク事務所に所属しました。でもそこがすごく厳しいところで、働いているあいだはほんとうに大変で……。数年勤めたけれど、辞めたあとは実家で灰のようになりました。

「もういっそメイクの仕事も辞めてしまおうか」とも思ったんですけど、1年くらい休んでから、結局ブライダル業界に復帰して。そのうちに少しずつ、「やっぱり憧れていたファッションの世界でメイクがしたい」という気持ちが強くなっていきました。その時点でもう34歳になっていたので、かなり遅咲きなんですけど。

酒井

メイクアップアーティストの大御所であるCOCOさんに師事されたのは、その頃ですか?

KOTO

そうですね。第一線で何十年も活躍されている方が、どんな人柄で、どんな考えをもっているのか知りたいと思い、COCOさんの弟子になりたいと思ったんです。実際、お人柄も仕事ぶりも素晴らしくて。COCOさんに師事した2年間は、ほんとうにかけがえのないものでした。

COCOさんのもとで学ぶといっても、彼女の教えは「記憶に残るものだけをあなたのものにしなさい」というものだったので、メモや写真をとることは禁止されていました。「私のコピーを生み出したいわけじゃないの。自分のセンスを磨きなさい」と言われていましたね。

初めてCOCOさんのお仕事を拝見した時、心から感動しましたし、圧倒的すぎて、恐怖すら覚えました。卒業したら、同じ土俵で仕事をしていくのかと思うと、私にこの夢は叶えられるのだろうかと、不安になって。「いつかはCOCOさんのような技術も人間性もカッコいい女性になりたい」という気持ちはあるけれど、今でも圧倒されますし、まだまだ努力が必要だなと思わされます。ほんとうにすごい方で、心から尊敬していますし、大好きです。

酒井

最近は写真家でもメイクアップアーティストでも、誰かに師事するという人が少なくなっているような気がするけど、そういう話を聞くと「僕も誰かのもとで勉強したかったなあ」と思ってしまいます。

KOTO

個人的な考えですけど、指針になる人がいるというのは、仕事における支えになると思うんです。「いろんな人から技術を学びたい」という人も多いけど、師匠という存在のありがたさを知らないのはもったいない、と思っちゃいますね。

2. 専門性・特性 / スペシャリティ

酒井

次は専門性や特性について伺いますね。KOTOさんのスペシャリティというと、クリエイティブユニット「MASMES」でされているような、アーティスティックなメイクが思い浮かびます。

KOTO

元々絵を描くことが好きで、メイクをお仕事にしたので、ルーツである絵のようなアート性を感じるメイクで、自分の感性をアウトプットしたいなと思っていたのですが、お仕事ではなかなかさせていただく機会がないので、写真展を目標にテストシュートをしたいと思っていました。

作品づくりを共にするフォトグラファーを探す際、ライティング技術が高く、感性の近い方がいいなと思っていました。その後、Yusuke Yamamotoくんに出会い、私がディレクションする世界をYusukeくんが切り取るというコンセプトで、お互いに尊重し合いながら作品づくりができると感じて、ユニットを結成することになったんです。

「MASMES」の活動には、自分のやりたいことが詰まっているから、ほんとうに楽しいですね。2023年末には新宿「NEwoman」のアートウォールで展示もさせていただいて、やりがいも感じられました。

酒井

KOTOさんの創造性には、やはり幼少期に通っていた絵画教室での経験が影響しているんでしょうか?

KOTO

大きく影響していると思います。今も絵を描くことは大好きで、最近はまた勉強し直しているんですよ。

それから、テストシュートもコンスタントに続けています。これは自分のモチベーションを保つためというのが大きいかな。仕事や育児で忙しいと、正直腰が重くなることもあるけれど、テストシュートをすることで自分自身の感性を見つめ直す機会になり、課題もわかるので、仕事に生かされていると思います。仕事だけだと、クリエイティブな思考ばかりではないので単調になり、「こなしてしまう」ことになりかねないので。

酒井

それはよくわかるなあ。僕たちの仕事って流行り廃りがあるし、依頼される仕事をこなしているだけだと、今はよくても、やがて依頼が来なくなるかもしれない。自分発信の活動を続けたほうが、長い目で見れば仕事につながると思います。

KOTO

そうなんです。それに、好きな事を仕事にしたからこそ、仕事が嫌になったら終わりですからね。自分が楽しめることが大前提だし、情熱を保ち続けることが何よりも大切だと思います。

最近は、動画のテストシュートもやってみたいと思っているし、3DCGやAIを取り入れた作品づくりにも挑戦したいと思っています。今はやりたいことやアイデアが頭のなかにいっぱいあるから、毎日忙しくて、時間が足りない感じ。人生は長いようで短いので、全う出来るよう精進するのみです。

3. 使命 / ミッション

酒井

KOTOさんがメイクアップアーティストという仕事を通じて、成し遂げたいと考えていることはありますか?

KOTO

私は、これまでに見てきた美しいものを自分のなかに蓄積しているので、メイクを通じて、それを自分の手で表現してみたいと思っています。能面をテーマにした作品づくりを控えているんですが、日本の伝統文化をメイクで継承していきたい気持ちもありますね。

それから、がんばっている人や「こうなりたい」「高みを目指したい」という理想をもっている人を、メイクで応援したいとも考えています。そういう人たちと作品づくりをすることも好きだし、すごくパワーをもらえますから。

酒井

最近は、オリジナルのスキンケアブランドも企画されているそうですね。

KOTO

そうなんです。先ほどもお話しましたが、私は昔からアトピーで肌が弱くて、そのせいでメイクに苦手意識をもっていたんです。肌がボロボロになると憂鬱な気持ちになっていたし、肌の調子がよくなるだけで、すごくポジティブになれました。それなら、心身ともに健康になれるようなスキンケアを、自分でつくってみようと思って。

とはいえ、独自のものをつくるとなると、ちゃんと研究開発チームのある会社とOEM契約しなくちゃいけないし、勉強しなきゃならないこともたくさんあるし……すごく大変です。頭のなかが忙しい!

酒井

すごいなあ。でも、スキンケアブランドを立ち上げたいというのも、「自分のように肌に悩みを抱えている誰かを応援したい」という気持ちの現れなんじゃないですか?

KOTO

そうかもしれません。とにかく私、やりたいことが多すぎて……人生があっという間なんです(笑)。息子との時間も大切にしたいし、仕事も大切だし、もっと時間が欲しい!

4.顧客 / クライアント

酒井

メイクアップアーティストの方のクライアントというと、どんな方が多いんでしょうか?

KOTO

広告のADの方や、代理店や制作会社のプロデューサーの方、雑誌の編集者の方やライターの方、ファッションブランドのデザイナーの方、音楽レーベルの方などが多いですね。

酒井

KOTOさんって、誰とでも仲良くなれますよね。業界の人たちがKOTOさんのご自宅に集まって、みんなで仲良くご飯食べたりしてるじゃないですか。まわりに人が集まってくるイメージがあります。

KOTO

もともと、どんな人ともフラットに接するように心がけているんです。年齢も性別も、肩書きもキャリアも関係なく、いち個人としてその人と接したいな、と。だから、OL時代の上下関係にうまくなじめなかったのかも。この仕事だと、異なる背景の人たちも一緒になって、平等な立場でものづくりに取り組めるから、私には合っているなって思います。今は毎日ハッピーですよ。

5.接点 / チャネル

酒井

KOTOさんは、SNSも積極的に活用されていますよね。仕事の実績だけでなく、作品もフィードにしっかり残して発信していたり。以前展示を開催されていたとき、空間を3Dで記録されていたのも印象的でした。

KOTO

あれは、以前現場で知り合った3DCGデザイナーの方が協力してくれたものなんです。素敵でしょう? 私、新しいもの好きというか、最新技術にすごく興味があるんです。「そういう技術があるんだ」って知ったら、やってみたくなってしまうし、やってみないと気が済まなくって。

酒井

バイタリティがすごい! 先ほどAIや3DCGを取り入れたテストシュートにも挑戦したいとおっしゃってましたが、そういうチャレンジングな活動を見た人から仕事を依頼されることもありますか?

KOTO

「MASMES」での作品を見た方からご依頼をいただけたことはありますね。テストシュートや「MASMES」での作品づくりは、仕事につなげたいというよりも、自分が楽しくてしていることだから、それを見た方からお声がけいただけるのはほんとうに光栄です。

6.自己投資 / インベストメント

酒井

作品づくりがもはやKOTOさんの重要な自己投資になっているようにも思いますが、そのほかに、意識的にしている自己投資はありますか?

KOTO

私は小さい頃からワクワクするものが好きだし、常に「自分をゴキゲンにしたい」と思っているので、興味があることにはなるべくトライするし、行きたい場所にも積極的に出かけるようにしています。

なんでも「五感を使って摂取する」というのも、大切にしていることのひとつです。行きたい場所があれば、スマホ越しに見るだけじゃなくて、実際にその場所を訪れて、肉眼で見て、匂いを嗅いで、空気にふれてみたい。最近はバーチャルで体験できることも増えていますけど、ほとんどのことは、自分の身体で確認したほうがはるかに素晴らしいと思います。

酒井

KOTOさんって、すごく人間として生きてる感じがします。生きて、自分の身体で感じたことを、しっかり表現している感じがする。生命力がありますよね。

KOTO

ちょっとやそっとじゃへこまないし、生命力はあるかも(笑)。「人に人生を左右されたくない、すべては自分次第」だと思っているから、なんでも自分でやってみたいと思ってしまうんですよね。

酒井

エネルギーで溢れてますね! スランプになったり、苦しくなったりすることはないんですか?

KOTO

うーん……、それで言うと、クリエイターって常に苦しいものじゃないですか? 生きるか死ぬかすら自分次第というか、サバンナに放たれて、どう生き残るか試されている感じ。すべてが自分の手にかかっているから、私だけじゃなく、みんな苦しみながら活動していると思います。その苦しさを、楽しさややりがいと思えるかどうかが大事ですよね。

酒井

それはそうかもしれない。すべての責任が自分にあるから苦しいけど、なんでも自分次第だから、やりがいもありますよね。

7.幸福 / ハピネス

酒井

最後に、KOTOさんの幸福についてお伺いしたいのですが……。ここまでお話を聞いているなかで、メイクアップアーティストという仕事自体に幸福を見出しているように感じました。

KOTO

その通りです。自分が「大好き」と思える仕事に出会えたことが、最大の幸せ!  OLをしていたおかげでメイクの楽しさに出会えたわけだし、自分には向いていなかったOLという経験にさえ、意味はあったんだなと思います。

酒井

まさに天職ですね。KOTOさんはほんとうに心から仕事を楽しんでいる感じがするし、いつも前向きだし、会うと元気をもらえますよ。

KOTO

私はワクワクをずっと感じていたいから、そのために仕事をしているところもあるのかも。「つまんないなあ」と思いながら仕事していたくないって、酒井さんも思うでしょう? 好きなことだけをやっていくのも、それはそれで大変なんだけど、そういう道を選んでしまったんですよね。

酒井

たしかに、ある意味修羅の道かもしれない(笑)。でも、それでこそKOTOさんですよ。

by KOTO

KOTO |CREATOR CANVAS

Jul 22. 2025

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