GC magazine 展示との対話「魁*タギッテルステイト」|Dialogue in see you gallery

Jun. 13. 2025

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2025年5月31日(土)から6月17日(火)まで、アーティストコレクティブ・GC magazineによる展覧会「魁*タギッテルステイト」が、東京・恵比寿の「see you gallery」にて開催中です。

東京工芸大学 写真学科の卒業生を中心に構成されたGC magazineの活動の主題は「写真の錯綜と当惑」。本展では、重いレンガを用いた“撮影のための”トレーニング映像、空間を大胆に利用した巨大なチェッカーフラッグなど、彼らの築いてきた文化や価値観が色濃く表現されたインタレーションが披露されています。

今回は、メンバーの伊藤颯さん、荏原陸さん、黒瀧倫太郎さん、鈴木冬生さんにインタビュー。GC magazineの活動や展示作品の制作背景、「写真」への想いなどについて、詳しくお話を伺いました。

GC magazine

Artist

若手を中心としたアーティストコレクティブ。「写真の錯綜と当惑」というトピックを扱い、zineの制作、写真を軸としたインスタレーションを展開し、展覧会を開催している。主な展示に「爆業Drive~GOの彼方へ~」Koma gallery(東京、2023年)、「KILLER”G”2nd Running alone pushin”G”Big high ACE」PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(愛知、2024年)、「HOT RODDERS “G”4th Drifting with you 『私の恋∞瞬間∞『螺旋』∞』」COPYCENTER GALLERY(東京、2024年)などがある。

16名の写真家で構成された注目のアーティストコレクティブ・GC Magazine

―― 国内外を拠点に活動する新気鋭の写真家によるアーティストコレクティブ・GC Magazine。現在、メンバーは何人で構成されているのでしょうか?

伊藤

16人ぐらいです。発足当初は僕とこの3人(荏原さん、黒瀧さん、鈴木さん)だけだったのですが、そのうち大学の後輩や先輩などもメンバーに加わってきて、いつの間にか大所帯になっていましたね。

―― そもそも、GC magazineはどのような経緯で発足されたのでしょう。

伊藤

僕たち、在学中はみんなで集まって頻繁に作品をつくっていたんですけど、卒業した途端につくらなくなるというのはもったいないなと感じて。卒業後、僕は就職せず(現代写真アーティストとして)活動を続けていたんですが、就職した仲間とも、今までのように作品をつくり続けられる場を設けようと思ったんです。それで、毎月1冊小さなZINEをつくるという活動をはじめました。

今は月1回のZINE発行は行っていないのですが、活動名の「GC magazine」はその頃の名残です。

―― GC magazineの「GC」にはどのような意味が込められているのでしょうか?

荏原

コンスタントにZINEをつくっていたころ、メンバー内で小さなコンペを開いて、一番いい作品をつくれた人が表紙を飾れるというルールを設けていたのですが、そのコンペの名前が「ガチンコ・ファイト・クラブ」だったんです(笑)。GCは、ガチンコとクラブから取ってつけた名前です。

―― 現在は、当初の活動スタイルから変化しているそうですが、展覧会のアイデア出しなどは、どのように行っているのでしょう。人数が多くなると、意見がぶつかることもあるのではと思ってしまいますが……。

伊藤

今でも頻繁にメンバーで集まって、対面で話し合ったりしているんですが、そのなかで誰かから出たアイデアを「それいいじゃん」と採用している感じです。もめたりすることはあまりないかな。

鈴木

みんなの意見が一致しているとか、考えが似ているというわけではなく、全員がある程度GCでの活動を「他人ごと」としてとらえている部分もあるのかなと思います。それぞれ自分ひとりでの活動もしているから、それとGCでの活動は分けて考えているというか。だからこそメンバーがみんなフラットに、ある程度客観視しながら活動を楽しめていると思いますね。

“写真を撮るための筋トレ”を映し出した「GACHINKO BOOT CAMP」

―― 今回の展示のメインビジュアルにもなっている、レンガで筋トレをする男性の姿を映し出した「GACHINKO BOOT CAMP」は、メンバーの荏原さんを撮影されたものですよね? これはどのように生まれたアイデアなのでしょう。

荏原

はい、これは僕ですね。もともと以前から、土門拳さんが提唱していたという「写真撮影のための」レンガを用いた筋トレを作品に昇華してみたいと思っていて、メンバーにも提案していたんです。長らくあたためていたアイデアなのですが、今回ようやく形にできました。

伊藤

僕たちの通っていた写真学科の先生が、土門拳さんのこの逸話をしょっちゅう口にしていたんですよ。僕たちは実際にその映像を観たことはないので半信半疑だったんですが、不思議とメンバーみんなの心にずっと引っかかっていたというか。

そもそも写真って、フィジカルの部分があらわれにくいメディアだと思うんです。さらに最近では、Photoshopで加工したり、AIで生成したりといった行為が当たり前になり、より労働的な部分が希薄になっている。改めてその部分を見直さないと、写真業界はネクストフェーズにいけないのではと考えていたのですが、今回“写真を撮るための筋トレ“というフィジカルな作品を発表することによって、逆説的に現状が感じ取れるようになっていると思いました。

土門拳さんの時代はカメラがとても重かったし、ブレをなくすためには筋トレが必要だったというのも理解できるんですけど、カメラが軽量化した今、写真のために筋トレするなんてバカげてるじゃないですか(笑)。でもそれを実際にやってみて、映像に出力してみることによって、写真を取り巻く現状をシニカルに表現できたと思います。

―― みなさんが写真にふれてきたこの十数年間で、写真を取り巻く環境は目まぐるしく変化してきましたが、みなさんはAIをはじめとするテクノロジーと写真のかかわりについて、どのような価値観をお持ちですか?

伊藤

僕たちは「労働」を意識してさまざまな作品に落とし込んでいるので、技術の進化であるAIが写真産業に入ってくることはごく当たり前だと思っています。プロンプトを細かく打ち込んで、長い時間をかけてAIでひとつの絵をつくりだすことだって、僕たちが外に出て時間をかけて撮影して、かっこいい作品をつくり出すことと同意義ですし、AIが参入してきたことによって、写真の可能性も広がったと思っています。でも、AIをうまく活用している写真家って、それほど多くないなというのが個人的な所感です。

とはいえ、僕らのなかにも「AIと長時間向き合っているくらいだったら、外に出て筋トレでもしてみれば?」という想いもなくはないので、こういう作品になっているのかもしれませんね。

―― トレーニング映像というフィジカルなアプローチから、現代の写真に対して懐疑的な立場を取られているのかと思いましたが、そうではないのですね。より上の世代だと、AIを脅威としてとらえている方も多い印象ですが、みなさんはどちらかといえば肯定的なのでしょうか。

鈴木

あまり上の世代の方とAIについて語り合う機会がないので、世代間によるギャップがあるのかはわかりませんが……。僕らにとってAIは、「遊び道具のひとつ」という感じですね。向き合い方としては、結構あっさりしていると思います。

伊藤

写真のなかのあり得ない位置に猫を出現させたりとか、意味のわからないことが簡単にできるし、単純におもしろいなあと思っちゃいますね(笑)

自分たちの勝利を宣言する「滾旗‼」

―― ギャラリーに足を踏み入れると、モーターレースのゴールの際に振られるチェッカーフラッグ「滾旗‼」が、巨大な姿となって来場者を迎え入れます。このインスタレーションには、どのような意味が込められていますか。

伊藤

モーターレースって、一度のレースで30周くらいするんですが、フラッグは人の手で振るものだから、誤って29周でゴールさせてしまうということがあって。フラッグが振られたらもうその瞬間には勝負が決まってしまうので、ミスだとしてもそこでレースは終了。それってすごくおもしろいなあと思ったんです。

今回の展示では、自分たちで勝手にフラッグを振ることによって「僕たち、ゴールしちゃいました!」と宣言しているというか、チェッカーフラッグにおける「振ったもん勝ち」を表現しています。

―― GC magazineではこれまでにも、車をモチーフとした作品を多く発表されていますよね。車をモチーフとして選ばれる理由は何でしょうか。

伊藤

もともと、メンバー同士で会うときに、作品の撮影や搬入などのために車を使用することが多いというのもありますし、僕たちが「車を運転しているときの取捨選択は、写真を撮るために行動しているときと似ている」と思っていることも関係しています。

写真作品をつくるとき、カメラを持って街を歩いて、被写体となるものを探して……というある種の「取捨選択」を行っていますが、運転しているときにも、さまざまなことに注意を払い、アクセルを踏んだりブレーキを踏んだりといった取捨選択をしながら、目的地に向かってひたすら走り続けますよね。ある種、狩猟本能のようなものが働いている状況だと思うんです。

それこそ、今よりももっとAIが発展すれば、車を運転するという行為もいずれなくなるかもしれない。そう考えると、運転も撮影もすごくフィジカルなものだし、とても似通うものだと思います。

―― 「GACHINKO BOOT CAMP」はかねてからあたためていたアイデアだとおっしゃっていましたが、「滾旗‼」と「GACHINKO BOOT CAMP」には作品としての関係性はあるのでしょうか?

荏原

「滾旗‼」は、ギャラリーの空間を実際に見てから展示しようと考えたものですが、「滾旗‼」は“結果のみ”、「GACHINKO BOOT CAMP」は“過程のみ”という点で、いずれも“空転”という考えのもとに共通しています。0から100のような関係性をもった作品たちです。

アート鑑賞という体験を、実空間での展示で提供する

―― 今回の展示は物販も豊富で、グッズも合わせて作品として楽しめるような構成となっていました。とくに、「GACHINKO BOOT CAMP」でトレーニングに用いられているレンガを模したZINEは印象的です。

鈴木

僕たちはもともと、「冊子やZINEはアートピースとして自立していなければならない」と考えていて、GCには変形ZINEをつくるという文化があったんです。その延長として、今回はレンガと同じ形、同じサイズのZINEを作成しました。

実はあのZINE、700ページもあるんです。レンガみたいに重くて重厚感があるけど、苦労して中を開いて見てみれば、筋トレしている姿がパラパラ漫画のようにコマドリで表現されているだけ(笑)。“写真を撮るための筋トレ“同様、ちょっとバカバカしくなるような行為を、来場者に体験してもらうような意図で設置しています。

―― 会場の一角、フラッグの後ろの死角になる部分に「GACHINKO BOOT CAMP」の顔ハメパネルが設置されているところにも、遊び心が感じられました

伊藤

顔ハメパネルは、フォトスポットとして設置してみました。フォトスポットって、「行きたい場所に行ってみて、そこで何かしらの写真を撮って帰ってくる」という、写真家たちが写真を撮るためにとる行為とすごく似ているなと思っていて、展示に設置してみるというアイデアが生まれたんです。

―― GC magazineの活動の主題は「写真の錯綜と当惑」だそうですが、全体を通して、「魁*タギッテルステイト」はそれが色濃く表現されているように思います。今後もその主題は変わることはないのでしょうか。

伊藤

そうですね。GCの作品は、写真を使ってはいるけれど、写真を撮っている人からは「これは写真ではない」と言われやすい作品なんですが、僕たちの作品はすごく写真に対して客観的な姿勢をとっているし、「たしかに写真って、こういうことでもあるのかもしれない」というような、見る人の視野を広げられるようなものになっていると思っています。

写真に対する価値観って狭まりがちだと思うんですが、僕らの作品を通じて、みんながもっと多角的な視点を持てたらいいなと思うし、それによっていろんな人の表現の幅が広がれば、僕たちももっと活動しやすくなると思うんです。GC magazineのメンバーはみんな、「写真」というものが好きだから、写真業界自体をもっと豊かにできるような活動をしていきたいと思います。

――素晴らしいですね。最後に、バーチャル・リアリティが発展する現代において、実空間に展示をすることへの価値について、みなさんのご意見をお聞かせください。ここまでインタビューのようすをビデオカメラで記録されていた黒瀧さんも、ぜひ!

伊藤

僕は、インターネット上の投稿を見ることと、実空間の展示を見に行くことでは、受け取るパワーがまったく違うと思っています。もしも今後スマートゴーグルがより進化して、家のなかでバーチャル空間の展示を体験できるようになれば、それもとても価値のある体験になるとは思いますが、少なくとも今の技術では、フィジカルな体験を超えるものを提供することはできないんじゃないでしょうか。僕は「アートを観る」という体験こそ重要だと考えているので、ギャラリーに展示するというのも、とても価値のあることだと思います。

鈴木

写真はモニター越しでも観られるけれど、出力するためのマテリアルも選択できるわけで、肉眼で観るのとは印象が変わりますからね。そういう意味でも、展示をする・展示を観に行くというのは必要なことだと、僕も思います。

それに「コミュニティをつくる」ということも、フィジカルじゃないとなかなか難しいと思っていて、それもGCが展示する意義のひとつになっています。僕たちは写真のメインストリームにいるわけではないですし、新しい軸をつくっていきたいという心意気をもっているので、展示をして、新たに人と出会いながら、今後もコミュニティを広げていきたいと思っています。

黒瀧

僕は……、今回の展示では(フラッグをはためかせるために)強い風を起こしているので、ぜひ体験しに来てほしいと思っています(笑)。パチンコの演出(ラッキーエアー)のような、エクスタシーが感じられますよ。

荏原

僕はバーチャル空間をつくるにしても、一度は実空間にアウトプットしたほうが魅力的になると思っているので、やっぱり展示は重要だと思いますね。

うーん……でも、「webを楽しむより筋トレしましょう!」とか言ったほうがおもしろかったかもしれない(笑)。僕も筋トレ不足ですね、もっとがんばります。

Information

EXHIBITION

魁*タギッテルステイト
会期:2025年5月31日(土) – 6月17日(火)
営業時間:13:00 – 20:00 (会期中無休、入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
ディレクション:J.K.Wang
協力:Mesmerism Inc.、LIGHT&PLACE湿板写真館
SNS:https://www.instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00–19:00(弊社休日を除く)


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