2025年7月17日(木)から8月3日(日)まで、クリエイティブユニット・néné petit(ネネプティ)による展覧会「Image Paper」が、東京・恵比寿の「see you gallery」にて開催中です。
フォトグラファーの岡﨑果歩さんと、スタイリストの中本ひろみさんによるnéné petitは、ファッションブランドなどのコミッションワークを行うかたわら、2023年には初の個展「étude」を開催。今回はユニットの新たな試みとして、20名弱のコントリビューターを迎えたZINE「Image Paper」を発行し、収録作品の展示を行っています。
今回は、岡﨑さん、中本さんのお2人にインタビュー。néné petitでの活動や、ZINE「Image Paper」の製作背景、展示作品などについて、詳しくお話いただきました。
唯一無二の世界観をつくり上げるクリエイティブユニット「néné petit」


―― フォトグラファーの岡﨑さんと、スタイリストの中本さんから成るクリエイティブユニット「néné petit」は、どのようなきっかけで結成に至ったのでしょうか? ユニット名の由来についても教えてください。
もともと私たちはお互いのアシスタント時代からの知り合いで、師匠のもとから独立したタイミングも似ていました。価値観や波長が合う部分もあり、2018年ごろから一緒に作品撮りをしたり、クライアントワークを請けたりしていたのですが、しっかりと活動に名前をつけることにしたのは、2022年ごろだったかな。
2人で一緒に取材を受ける機会があって、そのタイミングで、外に向けて「néné petit」というユニットについて発信しはじめたと記憶しています。実は、ユニット名も2人のあいだのノリで、ただ語感の良さが気に入っただけで決めた感じというか、とくに由来や意味などはないんです。付けたあとになって、フランス語の赤ちゃん言葉で「小さいおっぱい」という意味があるのだと、人から教えてもらいました。

―― 語感の良さだけで決められたユニット名ですが、フランス語での意味も含めて、不思議とお2人のつくり出す世界観のマッチしているような気がします。お2人のあいだには、活動における一貫したテーマなどはあるのでしょうか?
「néné petitではこういう活動をしよう」など、2人で決めていることはとくにないですね。私たちは4年ほどルームシェアしていたり、仕事や作品づくり以外のシーンでもよく2人で過ごしているので、その時々に興味のあるものや好きなものについて会話することがすごく多いんです。「こんなのいいと思うんだよね」「じゃあ次はこういうことしてみない?」など、いつも何気ない会話から作品が生まれています。
―― プライベートでも親交の深いお2人ならではのスタイルですね。意見がぶつかり合うようなことはないのでしょうか?
ぶつかることはあまりないですね。ただそれは、2人のセンスが似ているというわけではなくて、「これだけはやりたくない」とか「これは違うな」と感じる部分が同じだからだと思います。そういう意味では、価値観を一部共有できているのかもしれません。
総勢19名のコントリビューターが参加した「Image Paper」
―― 「Image Paper」では新たにZINEを発行するパブリッシャーとなりましたが、この新たな試みはどのような経緯でスタートされたのでしょうか。
2年前に「étude」という写真展を開催し、写真集も発行していたのですが、「もっと雑誌みたいなものをつくってみたいよね」と2人で話していたんです。いろんな方にコントリビューターとして参加してもらい、それをZINEにまとめるというアイデアはその頃からあって、具体的に動き始めたのが去年末くらい。
今回は「desire」がテーマですが、今後も「food issue」だとか「travel issue」だとか、テーマを変えて発行していきたいと思っていて。私たちのつくりたいイメージとしては「それぞれのテーマでつくられた作品がプリントされた、紙の集積」だったので、テキストなどはほとんどない、イメージが積み重なった紙という意味で「Image Paper」というタイトルをつけました。
―― 初号のテーマを「desire(欲望)」としたのはなぜでしょう?
きっかけは、とあるベテラン俳優さんの逸話にあって。その方には「人を脱臼させたあと元に戻すことができる」という不思議な特技があって、業界では「脱臼させるのが好きな人」として有名だったらしいんです。アントニオ猪木さんのビンタのように、「彼に脱臼してもらいたい」という人も多かったようで(笑)。実際、その方に脱臼してもらったという人に直接お話を伺ったことがあるんですが、もうなんというか、理屈を超えた「desire」を感じたんですよね。それで、人がそれぞれ持っている「desire」を表現したいと思いました。
―― 今回は19名のクリエイターの方々がコントリビューターとして参加し、それぞれが「desire」をテーマとした作品を製作されています。お2人は、コントリビューターの方をどのように選出されましたか。
2人で話し合って「desireがありそうな人」にお願いしました。中にはかねてからの知人もいますし、今回が初対面という人もいます。
展示のキービジュアルにもなっている鳩の写真は、私が以前から気になっていた、写真家のYosuke Demukaiさんのものです。DemukaiさんはよくInstagramのストーリーに鳩の写真を上げていたのですが、それがすごく印象に残っていて。

―― 展示会場では、一際大きなサイズで展示されており、鳩の鋭い眼光や羽の質感まで表現されていました。Demukaiさんの鳩の写真をキービジュアルに選ばれたのはどうしてですか?
今回のZINEと展示のトータルディレクションは、デザイナーのWang Ruiyuさんにお願いしているのですが、キービジュアルについて相談したとき、「どれかひとつの作品を採用すると、ほかの作品と平等じゃなくなってしまうかも」という話になって。唯一、この作品だけは、欲望と無欲のあいだのニュートラルな位置にいて、キービジュアルにぴったりだと感じたんです。
というのも、鳩は人の食事中に寄ってきたりするいやしい部分もある一方で、無欲の象徴にもされています。とくに、この写真の鳩は、欲望にまみれた人間を俯瞰で見ているようにも見えますよね。そういった意味でも、この作品は「desire」の象徴的なものになると思いました。

―― そのほかにも、フライドポテトを堪能する人たちの写真を、容器におさまったフライドポテトの形に折った作品や、キッズカメラで撮影された写真など、コントリビューターによるユニークな作品がたくさん展示されていましたね。
ポテトの作品には、複数のクリエイターの方が関わってくれています。あれは、「フライドポテトは欲望の食べ物」というコンセプトのもとで製作した作品なのですが、ポテトを食べる人たちのポートレートを写真家の岩澤高雄さんにお願いして、できあがった写真を、岩澤さんのご了承のもと、グラフィックデザイナーの小池アイ子さんに「自由に料理してください」と依頼しました。そうしたら小池さんが、印刷写真を折り紙のようにして、フライドポテトの形にするというアイデアを出してくださって。「ちょっと、天才すぎる!」と感動しました。岩澤さんの写真と小池さんのアイデアが組み合わさって、とてもいい化学反応を起こせたと思っています。
キッズカメラで撮影された写真は、実は小学生の男の子によるものなんですよ。なかぽん(中本さん)と行った展示会で偶然出会った子なのですが、生まれて初めて手に取ったというカメラでの撮影をすごく楽しんでいて、その姿がとても印象に残っていたんです。子どものピュアなdesireをぜひ提供してもらいたいと思い、親御さんにコンタクトを取って参加してもらいました。レシートのように印刷された写真に「⚪︎」や「×」のシルシがつけられているのは、その子が自らセレクトまで行った跡ですね。

―― 会場に入ってすぐ目に入る「Image Paper」のロゴ写真や、破壊されたMacbookの実物展示は、néné petitのお2人によるものですか?
Macbookは私たちの作品「no reply」に使用したものです。この作品には「もう今日は返信したくない。働きたくない」というコンセプトがあったのですが、2人で話しているうちに、「愛用していたMacbookに斧を振り下ろす」というアイデアが生まれたんです。実際、これは私が大学時代からアシスタント時代まで、10年近く愛用していたMacbookで、買い換えてからもなんとなくずっと捨てられない存在でした。パソコンとしては使用していないものだったので、作品に昇華できてよかったなと思っています。
「Image Paper」のロゴは、Wang Ruiyuによるワイヤー作品です。はじめは実物のワイヤーを展示しようと思っていたのですが、Wangさんから「ペーパーのほうがいいんじゃない?」と提案してもらって。「同じ大きさの紙に余白をつけてプリントアウトして、巨大なロゴを完成させる」というアイデアをもらったので、そちらを採用しました。結果的に、このほうが「Image Paper」という名前やコンセプトにマッチしたので、とても気に入っています。


実空間での展示は、作品の観覧に強制性をもたせることができる
―― 19名ものクリエイターが参加されていることもあり、ZINEの製作や展示の準備は大変だったかと思います。お2人にとって新たな試みでもありましたが、実際に挑戦されてみていかがでしたか?
大変でしたね。そもそもZINEは5月に発行予定だったのに延びてしまったし、展示というデッドラインがなければもっと遅くなっていたかもしれません(笑)。展示も準備期間が1ヶ月ほどしかなかったので、作家さんとの打ち合わせなど、ほんとうに慌ただしくて……。でも、ZINEの製作も展示の準備も、どちらもとても楽しかったですね。
ただ、個人的には、完成したときの達成感は展示のほうが強かったかも。ZINEは製作中に何度も何度もページネーションや構成を確認するので、だんだん見慣れてきてしまって、完成したときにも「やっとできた……」という安堵感のほうが強かったんですよね。一方、展示は開催までのスピード感が大切なので、頭のなかにあるものを大急ぎで実空間で表現しなくてはならなくて、その分「完成した!」という喜びが強かった。ZINEが弱火でじっくりコトコトつくる煮込み料理だとしたら、展示は強火でジャッとつくる中華料理のような感じでした。
―― 今回の展示はZINEの発行を記念して開催されたものですが、ZINEで発表されている作品を実空間で展示することに、どのような価値や意義があると思われますか?
すごくシンプルなことですが、展示をすると人に会えるというのが、やっぱりいちばんうれしいですね。しばらく会えていなかった方や、初めて会う方など、たくさんの人が足を運んでくれて、交流することができるので、個人的にはそれにもっとも価値を感じます。
あとは、オンラインで発表するよりも、見せ方に作家の意図を介入させられるところ。たとえばSNSで作品を公開したとして、それを見た人がどんなデバイスを使っているのか、作家側にはわからないですよね。スマホかもしれないし、PCかもしれないし、それによってサイズも見え方も違う。その自由度が強みともいえると思うんですが、実空間の展示にはより観覧に“強制性”が生まれると思っていて。
たとえばDemukaiさんの鳩の写真は、あえてとても大きくプリントした写真を、幅の狭い通路に配置しています。これによって、来場者は作品と間近で向き合わざるを得ない。web上だけでなく、ZINEの紙面でも叶わなかったことが展示ではできるので、それも大きな魅力だと思います。
私も、いちばん意義があるのは人がやってきてくれることだと思います。交流できることもそうですが、会話することがなくても、来場者の方が作品を観てくださっているようすを見ているだけで「そこで足を止めるんだ」とか「あの作品をじっくり観てくれているな」と知れたりして、興味深いですね。
もちろんZINEも自信作ですが、紙面とはまた違った雰囲気や色合いで作品を発表できたこともうれしかったです。それぞれの作家さんの良いところを、また違った角度からお見せできているんじゃないかな。ぜひZINEも展示も一緒に楽しんでみていただきたいです。
Information
EXHIBITION
Image Paper
会期:2025年7月17日(木) – 8月3日(日)
営業時間:13:00 – 20:00 (会期中無休、入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
ディレクション:J.K.Wang
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)